NFTに取り組んでいる人にさまざまな角度からNFTの可能性をお伺いする本企画。
今回は、障害者就労施設を運営するWellsTech株式会社の共同創業者であり、ブロックチェーン、NFTを含むWeb3領域を福祉に掛け合わせることで新しい障害者支援の形を提案する株式会社WAVE3の共同創業者でもある近藤貴司さんにお話しを伺いました。
近藤さんご自身も暗号資産やNFTに触れる中で、特にブロックチェーンゲームと福祉の親和性に気づかれました。
ブロックチェーンゲームとは、ゲーム内でNFTを用いてプレイすることで暗号資産を獲得できるゲームです。
近藤さんは、現在ご自身で創業された障害者就労支援事業所で、ブロックチェーンゲームを活用した障害者の新しい働き方を生み出し、実際に障害者の方が「ゲームをプレイして収入を得る」ことを実現されています。
中には、障害者に渡す報酬額が全国平均の約5~6倍に届くケースもあるそうです。
一見すると福祉から最も遠くにあるように思えるWeb3のテクノロジーが、障害者福祉の業界にもたらす革命について興味深いお話しの数々をお伺いできました。
ぜひ最後までお読みください!
障害者がWebで稼げる環境を作りたい
出典:WAVE3提供
−近藤さんが取り組まれている事業について教えてください
障害者の就労支援を行う事業所を運営しています。
私たちの施設「GIF-TECH’s」は「就労継続支援B型」という形態に該当します。
B型の施設を利用される方の障害の程度は、軽度から重度まで様々です。
その中で障害の程度が軽い方は、パソコンを使った比較的高度なWebスキルを必要とする仕事に取り組んでいます。
具体的にはブログの運営やライティング、映像制作、YouTubeチャンネルの運営、SNS運用代行などがあります。
−かなり高度なWebスキルが必要な仕事ですね。障害者の方がそのような仕事をしているイメージがありませんでした。
障害者という言葉を聞くと、車椅子で生活をされている方や四肢の一部を失っている方など、障害を持っていることが一目でわかる方を想像されると思います。
ですが、実は障害者にはもっと症状が軽い人もいるんです。
大人になっても多動だったり、人付き合いがどうしてもできなかったりという人がいます。
そういった症状も1つの発達障害、精神疾患として認められていて、現在の日本では障害者にあたるとされています。
明らかに障害を持っていることがわかる人だけが障害者というわけではないんです。
仕事自体はできるけど、一般の会社には就職できなかったり、あるいは就職しても上司と馬が合わなかったり、同僚と反りが合わないという理由で転職を繰り返してしまう。
そういった人でも、頭脳明晰で、高い技術を持っていることはよくあります。
クリエイティブな仕事はできるし、自分でもやりたいと思っている。
でも、どうしても対人でしゃべることだけはダメだとか、人の目を見ることができないとか、複数人に囲まれると足がすくんでしまうというような方たちに、私たちの施設を利用してもらい、Webスキルに特化した仕事に取り組んでもらっています。
−フリーランスとして独立できるくらいのスキルが身につきそうですね。
それもありうる選択肢だと考えています。
施設に通っていただいている間は、私たちが仕事を創出して、それを彼らにこなしてもらうという形がうまくはまっているように思います。
そこから完全に独立とまではいかなくとも、私たちの施設の受託作業を担ってもらうといった形で「半フリーランス・半独立」のような形態は実現できるかもしれません。
そして最近、Web3のテクノロジーが各産業と結びついている中で、障害者の方が取り組む仕事の選択肢の1つとしてブロックチェーンゲームを導入する流れになりました。
障害者就労の現状とブロックチェーンゲームがもたらした革命
−障害者の方が実際にブロックチェーンゲームに取り組んでいる実情について詳しくお聞かせください
新しく導入した「ブロックチェーンゲームで障害者の方が収入を得られる仕組み」についてお話する前に、「そもそも施設で働く障害者はどれくらいの収入を得ているのか」についてお話しします。
障害者の就労を支援する施設の形態には「就労移行支援事業所」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」の3種類があります。
提供:WAVE3
私たちの施設はB型にあたるため、利用者と雇用契約を結ぶわけではありません。
最低賃金も適用されないため、障害者の方が手にする報酬は一般的な労働に対する報酬の水準とは大きくかけ離れています。
B型の事業所で働く人の平均的な月額工賃(=月収)は、直近で最も高かった年でも約1万6,000円です。
これには交通費も含まれるため、実際にお渡ししている額は8〜9,000円程度が相場かなというのが私個人の感覚です。
提供:WAVE3
私自身が過去に記事や動画を制作し、報酬を受け取っていた経験があるため、動画1本の制作でも1、2万円の報酬を受け取れる仕事があることを知っていました。
そして、十分なWebスキルがあるにもかかわらず、なぜ障害者の賃金はこんなにも安いんだろうということにシンプルな疑問を感じました。
そこでまずは、障害者の平均工賃をあげようという目的で私たちは法人を作ったんです。
−障害者の方の収入がそんなに安いとは知りませんでした。ブロックチェーンゲームの導入は月額工賃の向上につながったのでしょうか?
かなりの向上につながりました。
すでに述べた通り、私たちの施設にはブログアフィリエイトなどで稼いでもらうコースがありますが、それとは別でブロックチェーンゲームやWeb3の技術を取り入れた別のコースを用意しました。
ブログを制作したりSNSを運用したりという高度なレベルの作業はできないけど、パソコンを使った仕事をしたいと思っている障害者の方が一定数います。
そういった方たちを集めて、試験的にブロックチェーンゲームのコースを稼働し始めました。
具体的には「Job Tribes」や「Axie Infinity」、「Titan Hunters」などのゲームをプレイしてもらい、報酬をお支払いすることができています。
出典:Job Tribes
全国平均額が1万6,000円程度の中で、私たちの施設では3~4万円以上、人によっては10万円に届く水準の金額をお渡しできているケースもあります。
知的障害をお持ちで、主に「Job Tribes」をプレイしている方がいるのですが、全国平均を大きく上回る金額をお渡しできています。
この金額だけを見ても革命だと思うんですよ。
−全国平均を大きく上回る金額とは驚きです!お金の部分以外でも実現できたことはありますか?
月額工賃の向上も大きな意味がありますが、より重要なのは「ゲームが就労支援の1つの選択肢になったこと」です。
ブロックチェーンゲームを導入しているコースも、ブロックチェーンゲームだけを仕事として取り組んでもらうわけではありません。
「ブロックチェーンゲーム&基礎PCワークコース」というコースにしており、ブロックチェーンゲームはあくまでエッセンスの1つです。
障害者の方の中には、実はゲームが好きだったり、サブカルチャーが好きだったりという人がかなりいます。
そういった部分を、ただの趣味で終わらせるのではなく、所得を得るための1つの選択肢にすること。
これはブロックチェーンゲームだからこそ実現できた、まさに革命だと思っています。
関連記事:「ジョブトライブス(JobTribes)」ってなに? 内容や特徴、始め方や稼ぎ方、初心者~中上級者までの攻略方法を詳しく解説します。
NFTが福祉業界に与えるインパクト
出典:近藤さんのTwitterより
−障害者支援事業の中で、NFTだからこそ実現できたということはありますか。
わかりやすいインパクトとしては「ゲームで日本円を渡せた」ということです。
これって普通はありえないことですよね。
これまではゲームで日本円を手にするとなると、リアルマネートレード(ゲームのアカウントやアイテムを現実の通貨で売買する行為)のように以前から非常にグレーとされ、現在では禁止とされているような方法しかありませんでした。
それが、NFTを用いたブロックチェーンゲームによって、真っ当なやりかたでゲームを通じて日本円をお渡しできるようになりました。
−web3業界が福祉に注目し始めるきっかけを作れたのではないでしょうか。
福祉業界は基本的に税金で賄われているので、とてもお堅い業界です。ですが、前向きに変化させて時代に順応していきたいと考えています。
Web3やNFT、ブロックチェーンゲームは障害者の仕事の選択肢を増やすだけではなく、福祉業界自体に多様な選択肢をもたらす可能性があるものです。
例えば、福祉業界の企業がトークンを発行してIEOで資金調達をするようなことがあってもいい。
既存の枠組みで固められた業界だからこそ、「選択肢の多様化」を実現するためにWeb3、NFT、ブロックチェーンというツールを今後も活用していきたいと考えています。
近藤さんが思い描く次の一手
提供:WAVE3
−NFTやweb3の技術を用いて、今後はどのような取り組みをお考えでしょうか。
福祉企業なのに福祉企業らしからぬスピード感を持つこと、他の業種と同じようなWeb3のスピード感で進んでいくことに意義があると思っています。
具体的には、トークンを利用した資金調達にもチャレンジしたいと考えています。
また、施設の利用者さんの中には絵が上手な方が多いので、ジェネラティブのNFTコレクションはやはり発行してみたいですね。
学習能力の高い方もいるので、Solidityのようなイーサリアム系の開発言語を学んでもらうのもありだなと考えています。
あとは、これは海外拠点を作ることになりますが、障害者本人や障害者を支援する方が参加するNFTゲームギルド(※)を作ってみたいですね。
※NFTゲームギルド:ゲーム会社、プレイヤー、投資家らの橋渡しをするコミュニティ。資金のないプレイヤーもギルドを通じてゲームに必要なNFTアイテムやキャラクターを借りてプレイすることができ、投資家はプレイヤーが稼いだ収益の一部を受け取ることができる。資金面などでプレイヤーをサポートし、NFTゲームの拡大に貢献する役割を担っている。
障害者福祉に関わる人も障害者本人も、情報感度があまり高くなかったり保守的だったり、お金がなかったりということがよくあります。
そのような人たちのためにギルドを解放してあげたいという気持ちがあります。
実際に施設を運営している私たちがやるからこそ、説得力もあると思っています。
このギルドを利用してもらうことで、施設にすら通うことができず、ずっと入院生活を余儀なくされている人でさえも、スマホ、タブレット、パソコンさえあれば気軽に経済活動に参加できる環境を作りたいですね。
こういった活動を全国に広め、業界全体を盛り上げていきたいと思っています。
そのために障害者福祉とWeb3をつなぐハブとして新しく作った会社が、ブロックチェーンメディア「CoinPost」と合弁で立ち上げた「WAVE3」です。
全国の福祉事業者も巻き込みながら、web3を活用して福祉を面白くする動きを業界全体で作っていけたらと考えています。