NFTに取り組んでいる人にさまざまな角度からNFTの可能性をお伺いする本企画。
今回は、地域づくり団体「山古志住民会議」の代表を務める竹内春華さんにお話しを伺いました。
山古志住民会議は、2004年に起きた新潟県中越地震の後に発足した団体です。
人口800人の限界集落、旧山古志村(現・長岡市山古志地区)の魅力を残すために活動しており、竹内さん自身も代表として日々奔走しています。
予算や人材の面で困難が続いていた地域づくり活動、その難局を打開するために竹内さんたちが着目したのがNFTでした。
NFTを通じて生まれた山古志住民とデジタル村民で構成されるコミュニティや、竹内さんたちが目指す“独立国家”的な地域のあり方など、様々なお話しを伺うことができました。
ぜひ最後までお読みください!
錦鯉NFTと1,000人を超える“ デジタル村民 ”
−山古志の活動の中でどのようにNFTを活用しているか教えてください
昨年(2021年)の12月に、約1万点の錦鯉NFTを発行しました。
山古志は錦鯉発祥の地であり、今も世界中の方から愛されている山古志のシンボルです。
発行からまもなく1年が経ちますが、1,000人を超える方にご購入いただいています。
錦鯉NFTを購入いただいた方は「デジタル村民」と呼ばれており、山古志を盛り上げるためにみなさんが独自でいろんなプロジェクトを動かしてくださっています。
私たちはその進捗をサポートしたり、実際の山古志で起こっているリアルな出来事を肌感覚で感じてもらえるような取り組みをしています。
震災直後の山古志 出典:山古志住民会議note
−限界集落でNFTというのはとても意外でした。NFTに注目したきっかけは?
そもそも5,6年前から、山古志住民と山古志に共感してくれる人たちで独立国家のようなものを作り、山古志を存続させていくプランに取り組んできました。
プランを実現するために広告代理店などに当たり続けましたが、費用対効果的にも、導入できそうなツールと出会うことができず、ずっと模索し続けてきました。
そこで、今も一緒にこの活動に取り組んでいるNext Commons Labファウンダーの林篤志さんに「山古志住民会議にとって最後の挑戦をしたい」と相談したのが2021年の春先のことでした。
ちょうどそのころ、総務省に申請した交付金1,000万円を採択していただいたことも後押しとなり、改めて林さんに相談しました。
そこで、ブロックチェーンやNFT領域の最前線で活躍されている方を紹介してもらい、初めてNFTというものを知って、これを活用していくことになりました。
山古志の牛の角突き
−NFTに詳しい人を紹介してもらえたのは大きいですね。次に、山古志住民とNFTホルダーであるデジタル村民の関わり方の現状について教えてください
Discord(NFT関連のコミュニティを運営する際に使うチャットツール(現在2000名が登録)には、リアルな山古志住民の中からも30〜40名くらいの人が参加しています。
みなさん恥ずかしがり屋ですが、その中でも「今日の山古志の星空でーす!」とか、「錦鯉がとれたよー!」といった地域の現状を発信してくれています。また、山古志スタンプラリーや山古志お試し居住など、山古志で実際に動かしているプロジェクトについても情報共有をしています。
参加している皆さんでキャッチするのが難しい情報、例えば「イギリスからこんなクルーが来ています」とか、「山古志が今こんな取材を受けています」といったこと等は私が直接発信したりもしています。
関連リンク:山古志のお試し移住
「どんな取り組みもみんなでチャレンジ」DAOから次々と生まれる自発的なプロジェクト
−デジタル村民の方が山古志を盛り上げるために取り組んでいるプロジェクトについて教えてください
いわゆるDAO(自律分散型組織:社長が存在せず、メンバーが自律的にプロジェクトを動かしていける組織のあり方)のようなイメージで動いています。
みなさんが取り組んでいただく企画は、山古志住民や私のOKが出ないとダメということはないんです。みんなで相談・議論しながら、ひとつずつ進めています。
みなさんがより自律的に動いていけるように、NFTの売上の一部を予算付けする「デジタル村民総選挙」というものを一度実施しました。
予算額は錦鯉NFT第一弾セールの売上の30%ですので、3ETH程度(約60万円)の金額なんですが、予算を付けるプロジェクト4つを投票で選びました。選ばれたのは以下4つです。
(1) VR上で仮想山古志村ワールドを作成する。
(2) デジタル住民が山古志を2泊3日で訪れ滞在し、経験をもとに製作した作品をNFTアートとして販売。継続的な活動のための原資とする。
(3) NFTを購入し、リアル村民&デジタル村民の共有財産を作る。
(4) デジタル村民として山古志に滞在し、感じたことをnoteやVlogにしたためる。
予算を付与した4プロジェクトについても、各プロジェクトオーナーが主体的に動き、それぞれのプロジェクトに参画してくださるデジタル村民とともに能動的に活動してもらっています。
この4プロジェクト以外にも、コミュニティ内の「人材募集」「企画募集」のチャンネルで出てきた案に参画する人がどんどん現れて、新しい企画が立ち上がったりしています。
−「デジタル村民総選挙」はどのような仕組みで行ったのですか?
錦鯉NFTをガバナンストークン(コミュニティ内で「投票権」として利用される暗号資産やNFTのこと)として利用しました。
NFTを3点保有している人は、3票の投票権を持っていることになります。
−大量の票を持っているホルダーの存在については、暗号資産やNFTのコミュニティでよく議論になりますよね
デジタル村民総選挙では、1人で多少まとまった票数を動かしているホルダーの方が実際にいらっしゃいました。
これについてはDiscordのコミュニティでも「規制をかけるべきか」という観点で議論が起こったんですよね。
「山古志に関わる重要な事項を投票で決める際に、『乗っ取り』とまでは言わないけど、実際にたくさんの票を持てばそういうことができちゃうよね」という意見がありました。
ですが、web3の世界では規制がないことがメリットでもあり、デメリットでもあります。
みんなで新しいチャレンジを模索している中、最初から規制をかけるのはいかがなものかという意見もありました。
最終的には、「山古志DAO」が、常にみんなが能動的に参加してコミュニティが盛り上がっている状態であれれば、自ずとお互いに抑制・自衛しあえるのではないかという結論になりました。
現段階では特に規制は設けていません。
「リアル村民×デジタル村民」は圧倒的な成果を生み出した
出典:クラスター
−NFTやメタバースなど、いわゆるweb3のテクノロジーを用いることで得られた成果はありますか?
デジタル村民の方が「ホスト側」として山古志の地域づくりに関わってくださっていることですね。
これまで山古志で「こういうことをやりたい」となった時は、まずは予算を用意し、お仕事として依頼をしてきました。
一方、デジタル村民の皆さんの動きは、自分も山古志の一員としてプロジェクトに関わり、自分ができることで山古志に貢献してくださっています。
仕事として依頼するわけではなく、また、ボランティアやサポーターなど「ゲスト」の立場というわけでもありません。
デジタル村民の皆さんはホストとして山古志の「なか」に入ってきて、村民としての権利と義務をみなさんなりに解釈した上で活動に取り組んでくださっています。
−NFTを発行することで、先に「仲間づくり」ができたイメージですね。具体的に成功したプロジェクトはありますか?
今、デジタル村民が「帰省」と称して、メタバース空間に作られた“仮想山古志村”を訪れる現象が起こっています。
あの“仮想山古志村”もデジタル村民のプロジェクトから生まれたんです。
メタバース作りのプロジェクトは総選挙の予算としては0.75ETH(約10万円)程度でした。
プロジェクトを立案したオーナーの方も「ブロックチェーンにはずっと携わっているけどメタバースは関わったことがない」という方だったんです。
でも、このプロジェクトに賛同してくれたデジタル村民の中には「3Dスキャンでモデリングができます」とか、「クラスター(メタバースを提供しているサービス)のワールドなら作れます」とか、「メタバースで動くアバターを作るのは得意です」という人たちがいて、そういった皆さんの知恵や能力、熱量でメタバースの山古志村が創られはじめました。
数年前、メタバース制作にかかる費用の見積もりをいくつかの企業の方に相談した際には数千万とご提示いただき、対費用効果で断念しました。
本当にデジタル村民のみなさんの熱量、能力には驚きしかありません。
−そんな能力を持った人が集まってきたのはすごいことですね。実際に山古志に住んでいるわけではないデジタル村民の方は、どのように仮想山古志村を作りあげたのでしょうか?
実際に現地を訪れ、山古志にある石仏や建物をスキャンして1つ1つ作ってくれたこともあります。
あるいは逆に、山古志メンバーがドローンを飛ばして動画をとり、「この動画を素材にして建物を作って!」といったやり取りもありました。
−まさにリアルとデジタルの融合ですね
「天気がよくてドローンを飛ばせるから、今日来てください!」と言っても簡単には来れないじゃないですか。
でも、山古志にいる人が「今日は天気がいいからとりあえずドローン飛ばしとくね!」と言って動画をとり、それをDiscordに投げれば、デジタル村民がそれを素材にメタバース内の建物を作ってくれたりするんです。
みんな、一体何者なんだろうと思うくらいすごい人たちですね(笑)
デジタル村民が山古志経済に与えた影響
出典:ECサイト やまこしマルシェ
−主体的に関わってくれる仲間が増えたことで、他に何かよい影響はありましたか?
山古志のリアルな経済も少しずつ変わりはじめています。
元々、山古志では「移住・定住プロジェクト」「離れていても山古志を楽しめるオンラインツアー」「山古志のおじいちゃんおばあちゃんが作っている野菜を販売するECサイトやサブスクサービス」などに取り組んでいました。
これらについて、以前は取り組みごとに参加者を獲得するしかありませんでした。
ですが、デジタル村民のみなさんはそもそもこういったサービスに対するニーズを持っていました。
「オンラインツアーがあるならもちろん行きたい!」「山古志のおばあちゃんが作っている野菜が買えるならサブスク契約します!」という声をいただきました。
そして、こういった声は山古志に実際に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんの張り合いにもなっています。
おばあちゃんの取った大根をメタバースで動くアバターにして見せてあげると「なんやこれ!?あの大根が動いてる!?」といって驚いてくれたりもしました。(笑)
そうすると、変な形の大根やニンジンが採れたらまた持ってきて、「これもあんな風に動くようにしてくれるかい?」と言ってきたりします。
現実の山古志経済の変化という意味でも、そこに住んでいる住民のメンタル面の変化という意味でも、よい効果が出ているなと感じます。
−NFTというデジタルのテクノロジーをきっかけに、リアルな経済にまで影響が及んでいるのはおもしろいですね
コロナの影響で、対面のイベントや交流事業が山古志に限らず日本各地で制限されてしまっていました。
だからこそオンラインツアーやECサイト、サブスクなど、離れていても山古志を感じられるような取り組みが「より山古志を感じたい、知りたい」というデジタル村民のニーズと合致したんだと思います。
出典:山古志住民会議資料より
−もともと山古志に興味を持っていた人がNFTを購入して村民になったケースが多いのでしょうか?それともNFTという技術を入り口としてデジタル村民になり、そこから山古志自体に興味を持つようになった人が多いのでしょうか?
山古志のことは全然知らなかったという人が圧倒的に多いです。
「なんか田舎っぽい村がNFTを発行したって?」「しかもNFTを持っていたら住民になれる?なにそれ、面白そう!」といって入ってきた方が、第一弾セールのときはほとんどでしたね。
その後、第二弾セールの前にデジタル村民総選挙を実施した影響もあり、第二弾では「これまでにも山古志に関わってくれた層」の人も入ってきました。
それでも比率的には95対5くらいで、圧倒的に「山古志のことは知らず、NFTという切り口から入ってきた層」が多いです。
出典:Otsuki Lab
−単純に「NFTというテクノロジーに興味がある」という人が多かったのでしょうか?
それもありますが、ご自身の仕事やプライベートの活動で地域づくりに関わっているという人も多いです。
「自分が住んでいる地域も、なんとかこういったテクノロジーを使って元気にしていきたい」という活動をしている人が、NFTを購入して山古志DAOに関わることで自分自身も学ぶことができ、あるいは自分の普段の取り組みを山古志という場で実際に試すこともできます。
山古志での活動で自分が得た経験や知識を、自分の地域や仕事に反映させたいという思いで取り組んでくださっています。
中越地震以降に積み重ねたトライ&エラーが今、自分たちの挑戦を支えている
−NFTを用いて新しい取り組みを始めることについて、反発はなかったのでしょうか?
住民会議のメンバーは満場一致で「やるぜ!」という感じでした。
住民の方からは、確かに「NFT?ブロックチェーン?なんだかわからないけど、それって大丈夫なの?」という反応はありました。
ですが、「そんな得体のしれないものはやめろ!」という反発はありませんでした。
「震災以降ずっとこれまでそうだったように、また1つ新しい挑戦をするんだな。横文字だらけで全然わからないけど、山古志のためにやっているんだな」と、温かい目で見守ってくれました。
山古志では新潟県中越地震が起こって以降、数多くのトライ&エラーを積み重ねてきています。
住民の方も何が正解か不正解かわからないけれど、決して諦めることなく、絶え間ないチャレンジを続けてきたのだと思います。
こんな土壌がある山古志からこそ、今回の発案に至ったんだと思います。
今後、山古志に住んでいる人間が減っていくかもしれませんが、山古志に共感してくれる人が世界中にいれば、山古志のアイデンティティは未来永劫残せるし、存続もしていけるはずです。
これまでの山古志住民の歩みがあったからこそ、今のプロジェクトにもつながったんだと思います。
山古志の美しい棚田と棚池
−住民のみなさんも前向きに捉えているんですね。その中で、今後何か懸念されることはありますか?
1,000人のデジタル村民が生まれ、中には実際に山古志に「帰省」する人もいます。
山古志の民宿に泊まり、住民と話をし、ふれあう機会も増えています。
山古志住民のみなさんも、そういった場を通じてデジタル村民のことをもっと知りたいと思っていますし、逆にデジタル村民の方も、よりリアルな山古志の実情を知りたいと考えています。
住民のみなさんも、「保育園は休園。小中学校の生徒数もあわせて30人しかいないとか、リアルな山古志の実情も伝えたい。」と、そのように言ってくださるようになりました、
そのブリッジをこれまでは私が担っていましたが、これからは私を介さずともリアル住民とデジタル村民が複合的に自由に交流し、ふれあえるようにしていきたいですね。
そのやりとりの中では摩擦も生じるはずです。
異なる価値観の人間がぶつかって、摩擦が生じない方がおかしい。
そんなのは不健全ですし、お互いが、あるいは少なくともどちらかが嘘をついていることになりますから。
そういった衝突を補いながら関係性を作っていくことが、これからの課題だと思います。
山古志住民とデジタル村民で“独立国家”を作りたい
−山古志の地域づくりでこれから挑戦していきたいことはありますか?
今は1,000人のデジタル村民と山古志のリアルな住民の双方が、壁を崩しながら融合しようと歩み寄ってくださっていることが感じられます。
その動きを促進、サポートしながら、山古志住民とデジタル村民で作る1つの“独立国家”のようなコミュニティを作ることを目指しています。
平成の大合併を経て、旧山古志村は長岡市の一部になっています。
長岡市の人口は約27万人。
27万人のうちの800人となると、長岡市としてもお金を出したくても出せない、なんとかしてあげたいけどしてあげられないというジレンマがあり、それは肌感覚として私も山古志の住民も感じています。
行政が担っていた「公助」が少なくなってしまう分を、自助と公助の間にある「共助」として、今私たちが進めているプロジェクトによって人やお金を集めることで、山古志の山林管理や除雪、交通インフラや学校の維持もできるのではないかと考えています。
その先に思い描いているのは、「世界中のどこに住んでいても山古志の村民でありえる『デジタル村民』の概念」「独自のお金(トークン)の創出や、NFTの売上以外にも収益を作って経済を回していける経済圏」「独自の憲法」の3つを揃えることで、“独立国家”的なコミュニティを作ることです。
円とかドルとか、目に見える国の枠組みに縛られた貨幣や経済圏じゃなくても、支援したい人に直接その支援が届く世の中になったんだなと思います。
そして、それを延長した先では、人間の帰属先や拠り所、自分は〇〇の所属ですという感覚、そういったものがNFTを買うことで可視化されるようになるのではないかと、思っています。
デジタルをかけ合わせることで自分のアイデンティティを証明できる世の中になれば、それは幸せな世の中になるんじゃないかなと思います。
自分の帰属先を自分で選択し、自分で作っていく。それはNFTやブロックチェーンの技術を使えば実現できるかもしれません。
そういった世界を、山古志の“独立国家”のようなコミュニティで体現したいなと思っています。
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