NFTに取り組んでいる人にさまざまな角度からNFTの魅力をお伺いする本企画。
今回は、農業に関心を持つ人たちが集うコミュニティ「tomajo DAO」および1点物のNFTコレクション「tomajo NFT」のファウンダーである とまたろうさんにお話しを伺いました。
とまたろうさんはサラリーマンを辞めて独立し、専業農家として農業の世界に飛び込みました。
農業は私たちの生活を支える一次産業である一方、NFTのような最新のテクノロジーとは程遠いところにある印象も否めません。
しかし、とまたろうさんはNFT、DAOといったweb3の技術やコミュニティの力をフル活用して、まさに「新しい農業の姿」を模索しています。
テクノロジーの力で既存産業のあり方を大胆に変えていく非常にチャレンジングなお話しを伺うことができました。
ぜひ最後までお読みください!
脱サラして農業の道へ。難局打開のために勉強した先で出会ったNFT
−最初にNFTを知ったきっかけを教えてください。
イケハヤさんのVoicyですね。
最初はNFTが持つ機能や意味合いは理解していませんでしたが、先行者優位という言葉にひかれて興味を持ち始めました。
−NFTのことを知っても「自分には関係ない」と考える人は多いと思います。その中で、とまたろうさんがNFTに興味を持てた理由は?
以前、私はサラリーマンをやっており、脱サラして農業の道に入りました。
ですが、この世界に入って丸3年はまったく食えず。
この状態で農家を続けていてもダメだと思い、とにかく勉強しようと決めて使ったツールがYouTubeでした。
当時はビジネス系YouTuberが流行っていましたが、その中でイケハヤさんのチャンネルにも出会い、Voicyも聴くようになったという経緯があります。
その後、2021年後半からイケハヤさんがNFTの話をするようになり、そこで初めてNFTのことを知りました。
そもそもの出発点として「農業で食えないこの状態をなんとかしないといけない」という強い問題意識があったので、確かにNFTは非常にマニアックな技術に見えますが、自分の目には「役に立つかもしれないツール」として映りましたね。
関連記事:イケハヤさんってどんな人? 3000万のCryptoPunksを買い、CryptoNinjya NFTで新しい関係性を探求
農家もNFTも同じ「クリエイター」の世界なんです
−農業とNFT、かなりかけ離れているように見えますが、NFTが農業に活かせると思った部分はどのようなところでしょうか?
農家って実は「クリエイター」なんですよ。
農家は農作物を作り、それを提供することでみなさんに喜んでもらっています。
クリエイターがものを作って、その価値を世の中に問うてみるという点においては、NFTクリエイターも農家もなんら変わりありません。
そこで、「野菜を提供するのと同じように、デジタルアートも提供できるんじゃないか?」という発想に至ったんです。
私がファウンダーを務める「tomajo NFT」は、1つ1つの作品がトマトの品種ごとに擬人化したものになっています。
本物のトマトを作って世に出すのも、トマトを擬人化したイラストを世に出すのも、私にとってやることは同じ。頭の中で使う思考もまったく同じでした。
デジタルアートの販売から着手し、その後DAOを作ると多くの方が入ってきてくださり、NFT販売のおかげで資金調達もうまく波に乗りましたが、そもそものスタートは「NFTも農家もクリエイターである」というシンプルな発想からなんです。
※DAO(ダオ:自律分散型組織のこと。トップダウンではなく組織員が自律的に活動していくコミュニティの形態)
−NFTを活用して得られた効果についてお聞かせください。
まずは仲間集めができたことですね。
「tomajo DAO」というコミュニティを運営していて、570人ほどの方に参加頂いています。
メンバーはどんどん増えていて、いま思い描いているビジネスの中心メンバーになってくれています。
また、メンバーそれぞれが自分のポジションをとって事業を進めています。
DAO自体は自律分散的とは言えないまでも、プロジェクトごとに見れば自律分散的にはなっています。
−農業関係の方は「高齢」「テクノロジーに明るくない」というイメージがあるのですが、どのような方がDAOに参加しているのでしょうか?
DAOのメンバーの85%は、私自身のVoicyをきっかけに参加してくれています。
そして、私のVoicyを聴いている人のほとんどが、イケハヤさんや西野亮廣さんのVoicyリスナーなんですよ。
つまり、あの方たちの配信を聴いて「教育」を受けた人が入ってきているので、テクノロジーに対するリテラシーの面では何も問題がないんです。
−それはありがたいですね。ということは、とまたろうさんのVoicyリスナーはイケハヤさん、西野さんの音声で学習をしつつ、農業にも関わりがある人というイメージでしょうか?
私のような専業の方もいれば、平日は会社員で週末だけ農業をしている方もいます。
もしくは実家が農家でいずれは継がなきゃいけないというように、農業というキーワードに触れる人は意外に多いんです。
私のVoicyは3000人ほどの登録者がいますが、その中にもご自身の生活の中に何らかの形で農業のエッセンスを感じている人はたくさんいて、そういう人もDAOに入っています。
基本的に日本人は皆、昔は農家だったわけですから、どこかしらで農業とつながっていたりするんですよね。
あるいは主婦の方なんかは、家庭菜園というキーワードをきっかけとしてコミュニティに入ってくださる方もいますね。
−素晴らしい仲間が集まっていますね。他にはNFT活用で得られた効果はありますか?
もう1つは資金調達ですね。
tomajo DAOも運営にコストはかかっています。
具体的には、コミュニティマネージャーの採用や各プロジェクトへの資金提供などがあります。
また、来年4月にジェネラティブNFTを出すことを予定しており、その資金をトレジャリーウォレットのようなイメージで集めています。
※トレジャリーウォレット(NFTの売上等の資金を、特定の個人ではなくコミュニティ全体で管理するウォレット)
ジェネラティブNFT発行に向けたデザインやシステム周りの支払い、サーバー代など、すべて含めた概算は既に出し、その金額はNFTの販売額でペイできる見通しは立っています。
関連記事:NFTって何ができるの? 具体的な使いみち(アート・投資・ゲーム)を初級者向け、中上級者向けに分けて徹底解説します。
web3上に農村を作る!
−tomajo DAOはどんなコミュニティを目指しているのか教えてください
キャッチフレーズは、「web3上の農村」です。
「リアルな農村をweb3上に持ってくるとこうなるよね」というのを目指しています。
実際の農村には「農家の人もいる、ひっそりと暮らす絵描きさんもいる、家庭菜園をしている主婦もいる」というように多様な人がいます。
そういった農村の面白い部分を抽出してweb3に持ってこようとしているんです。
農作物を調理する人もいれば、それをお土産として売る人もいる、そういった経済圏をそのままweb3に持っていこうという考え方なので、農作物を使った料理の写真や情報をアップする人もいれば、それをオンラインで売りたい・買いたいという人もいるし、あるいは料理を食べた感想を投稿する人がいてもいい。
そういった「農村のリアルな世界」をweb3で再現するというのがキーワードです。
tomajo DAOに来れば心が癒されるような、そんなリアルな農村をweb3に再現するという感覚でいろんなチャンネルを作っています。
NFTやweb3はふわっとした概念だと思いますが、それをリアルな社会とどうつなげていくかがポイントになると思っています。
一部のマニアだけがワチャワチャする世界じゃなくて、web3、DAO、NFTというのは実社会に役立つもの、身近なものだよということを、実例を作って示していくのが私たちの大事な仕事だと思っています。
その切り口の1つがweb3の農村であり、今はそこを攻めている感じですね。
−非常に斬新なアイデアですね。Web3の世界で、農村が他のコミュニティとつながっていくイメージはありますか?
最近、イケハヤさんが、「ニンジャ城ができ、パンダ城ができた。次はネコ城ができる」ということを言いますよね。
ニンジャ城はCNP(CryptoNinja Partners)、パンダ城はAPP(Aopanda Party)、そしてネコ城は今後リリースを控えているLLAC(Live Like A Cat)のそれぞれのコミュニティを指したものです。
これを聞くと、何もない平原に続々とお城が出来ていく風景が目に浮かぶじゃないですか?
そして私たちは、その中で農村を作っています。つまり、平原に城もあれば城下町もあり、商店もあるけど、農村も必要だよね?ということです。
その農村で採れた2023年の新米を、例えばニンジャ城のお殿様に献上するみたいな(笑)そういうイメージを持っています。
ですので、リアルにDAO同士がつながっていく構想も描いています。
具体的には、各DAOの中にうちの農作物直売所を作ってもらうというような動きです。
各DAOの直売所をクリックすると、tomajo DAOの直売所に飛ぶようなイメージです。
他のNFTプロジェクトが築いた城の中にうちの農作物販売所を置いてもらうことで、tomajo DAOの農民たちはそこで商売ができるようになります。もちろん、決済はイーサリアムです。
この構想が実現すれば、現在web3に関わっているこの界隈の人全員がお客さんになる可能性がありますよね。
私たちは今、そこを狙って着々と動いています。
※2022年11月現在、LLAC、NMO、人妻DAO内に農作物直売所を設置
関連記事:【直撃インタビュー】人口800人の限界集落・山古志の挑戦 NFTでつながった地域住民とデジタル村民が目指す新しい”独立国家”
クローズドなコミュニティには優良な顧客がいた
−確かにtomajo DAOの直販サイトには「暗号資産で決済可能」と記載がありました。ですが、一体誰がこれを使いこなせるんだろうと思いましたが……
Web3上の農村作りを進める理由はもう1つあります。
それは、いまweb3にコミットしているような人は「農家的には超優良顧客である」という事実です。
現時点でweb3に関わっているような人は、つまるところ「時間に余裕があり、お金に余裕があり、面白いことに対して積極的に動いていける人」に他なりません。
そういう人は農家にとって最高のお客さんであり、価値があるもの、良いものにはお金を出してくれる人ということにもなります。
農家の所得が上がらないことはよく問題視されますが、それは安売り合戦に巻き込まれているからなんですよ。
一方、私たちはまったく違うところにマーケットを作ろうとしているんです。
これこそがtomajo DAOの戦略です。つまり、農家の所得を上げるためにはまず良いお客さんを探すこと。それには、いまweb3の世界にいる方が最も適しています。
−NFTの技術的な面がweb3上の農村というコミュニティを作るにあたって果たした役割についてお伺いします。
NFTの「資産性を帯びている」という側面のおかげで資金調達が実現できたことが1つ。
そしてもう1つは、パスポート的に活用することができる点があります。
NFTは私たちが作るマーケット、経済圏に入るためのいわばパスポートです。
このように活用していくにあたり、ブロックチェーンによって唯一無二性が証明されているという技術的な裏付けがある点は非常に大きいと感じています。
−経済圏に入るためにパスポートが必要という概念。一見すると排他的にも見えますが、これもある意味では非常にweb3的な気がします。
排他的に見えますが、今はクローズドな世界で勝負をするのがベターだと考えています。
もちろん、いずれ日本国民全体にもっとNFTやweb3の概念が広まってくれば、そのときはマーケットもより大きくなっていると思います。
web3で農業の収益構造は変わる
−これまで実現できなかったことで、NFTを用いることによって初めて実現できたことは?
大きな話ですが、NFTは社会の不公平を是正できるツールだと思っています。
社会のねじれを解消したり、実力はあるのに日の目を見なかった人が主役になれたりする。
誰もが主役になれる平等な社会ができるんじゃないかなと思います。
これは農業の世界でも同じです。
例えば、農業の収益構造の中では農家の取り分ってめちゃくちゃ少ないんですよ。
これには構造的な問題があって、仕組みとしてはもう限界に来ています。
それこそが「農家が食えない、農家の所得が上がらない」原因の1つなんですが、NFTやブロッチェーンの技術を使えば、それぞれの農家が実力に応じて所得を得られる仕組みが作れると感じています。
NFT、DAO、ブロックチェーン、web3といった技術で、これらの問題を解消していきたいと思います。
−農業の世界でも、中央集権的な存在に中抜きをされる仕組みがある?
NFTの世界では、クリエイターファーストと言いますよね。
NFTの技術を使うことで、イラストレーターやアニメーターがきちんと報酬という果実を得ることができる。
でも、例えばこれまでのアニメの世界だと、現場で絵を描いている人が一番所得が低かったわけです。
そして、実は農業もまったく同じ。クリエイターが収益を取られ過ぎているんです。
具体的な話をすると、スーパーで100円で売っているキャベツの場合、農家の手取りは30円しかないんですよ。
つまり、7割が手数料で持っていかれるんです。
もちろん、「この構造っておかしくない?」とみんな思っています。
ではなぜこのような仕組みになってしまったかというと、販売をすべて委託してしまったという過去があったからなんですよね。
「農作物を作ってさえいれば買い取ってくれる」というところに甘んじていた農家が悪いんですが。
せめて私たちのような若手の農家は、「そうはさせない」という姿勢を見せ、新しく仕組みを作っていきたいと思っています。
そして、いま取り組んでいる活動こそがまさにきっかけとなり、今後より大きな波になると確信しています。
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Discordで出会える「わたしの隣の農家さん」
出典:tomajo DAO Discord コミュニティ
−NFTを活用して今後どんな挑戦をしていきたいか教えてください。
手数料0円の直売所を作ることが、今の最大の目標です。
「手数料はいらないから、100円で売ったキャベツの手取りは農家が100円取ってくださいね」という直売所を作って普及させていくこと、まずはこれですね。
また、消費者の方に新しい購買体験を届けたいとも考えています。
その点、DAOを運営する際に使っているDiscord(NFTや暗号資産界隈で利用されるチャットツール)って、メチャクチャ優れているなと思うんですよ。
具体的に何がよいかと言うと、「消費者が農家と直接チャットができる」という点です。
これは消費者にとってわかりやすい付加価値になります。
スーパーに行って「千葉県産のキャベツ」を買うのではなく、「千葉県の〇〇農園の△△さんが作ったキャベツがほしい!」と思うのは、Discordでのコミュニケーションがあってのことだと考えています。
お子様がいて、常日頃から食材に気を遣っている主婦の方なんかは、「この野菜はどんな風に作っているの?」とか、「どんな方針で農作物を作っているの?」みたいなことを知るだけでも安心につながるはずです。
しかも、スーパーの野菜は農家が採ってから4,5日経って流通しますが、tomajo DAOなら注文したその日に採れた野菜が翌日にはお客さんのもとに届きます。
ですので、新鮮さも間違いないですし、野菜の旬も踏まえて「今が一番美味しい時期ですよ」といった情報も農家側からお伝えすることができます。
消費者にとって、身近に畑がある感覚、身近に農家が住んでいる感覚になると思っています。
これは新しい購買体験になるはずで、そこも含めて私たちの活動はPRしていきたいと考えています。
農家が稼げることを若い人たちに示したい
−NFTやweb3を通じて、世の中がどんな風になったらいいと思われますか?
公平公正、誰もが満たされる社会ができることですね。
誰もがチャンスを掴める世の中になってほしい。
頑張りに応じて農家の所得が上がれば、農家になりたい人は増えてくるはずです。
農家が思いっきり稼いで良い暮らしができていれば、「農家になりたい!」と思う若者は必ず入ってきます。
若者が入ってくれば、今の日本の農業界で言われている問題は解決するんですよ。
高齢化、耕作が放棄されている畑、限界集落、地方の衰退など、これらは全部農業が復活すれば解決する問題なんです。
評論家の方にあれやこれや意見を言っていただかなくても、実際に農家が儲かる仕組みを作れば話は早いわけです。
私たちのような若い農家こそが、先陣を切ってそこに取り組んでいきたいと思います。